【HANA】競争の中の個の尊重、選者のアンデンティティ <第3話/全4回>
- kazue oodaira
- 3月1日
- 読了時間: 4分
更新日:4月2日

単なる“発掘”ではなく“育成”に重点を置いた独自性
「No No Girls THE FINAL」の会場となったKアリーナ横浜は、観客に独特の空気が醸成されていた。あたたかな反応、穏やかな空気。最終審査の前に、3次審査のA~Fチームの30人が、課題曲を披露した。参加者が紹介されるたびに、「◯◯ちゃーん」と惜しみない声援があちこちからとぶ。
審査結果発表後のラストは、ちゃんみなも含めた30人全員でマイクリレーをしながらノノガテーマ曲『NG』を歌う。合否の境界線がなくなったステージはまさにノーサイド。ファイナリストとしてオーディションを終えた3人の弾けるような笑顔も印象的だった。
サバイバルを旨とするオーディション企画は、選考の過程を公開することでデビュー前にファンを醸成するメリットがある。自分の推した人が選ばれたら嬉しく、身内を応援するような心理も育つ。
ノノガの魅力はそれだけにとどまらず、たとえば観客にさえ独特のあのおおらかな一体感を醸成した理由は、企画が単なる才能の発掘で終わらず、人を育てるという観点を大事にしていたことが、見る者にも共有されていたからではないだろうか。
そもそも、選考に残らなかった参加者が最終日にパフォーマンスを披露できるオーディションをあまりきいたことがない。
「THE FIRST」を、SKY-HIは「育成プログラム」と呼んだが、ノノガにも明確にそのコンセプトを感じる。
ファイナルで「ここからが私たちの番。あなたのNoのために戦う」と歌い始めたCHIKAは4次審査で、「ここまでだからね、自信なさそうにするのは」とちゃんみなから釘を差されている。実力がありながら、過去のオーディション経験から、「人の足を止めたり、ひきつけられるような人間ではない」と自己否定をしてしまう彼女の心持ちを見抜いたうえでの助言だった。
「私は大丈夫じゃない」
5次審査では、完璧主義を求めすぎて音楽を楽しめずにいる韓国出身のJISOOに、「まぁいっか」がなさすぎると指摘する。
彼女と話し合って決めた最終審査のソロ楽曲は『I’m Not OK』。ちゃんみなが自分らしくないことをやらされ、心を病んでいた頃に作った全編英語の曲で、「私は大丈夫なんかじゃないと、やっと言えるようになった」という歌詞がある。
最終審査での髪を短く切り、ショートパンツで駆け巡り、ギターをかき鳴らすJISOOのソロパフォーマンスは、ロックチューンということもあるが、観客が、体を揺らし審査のステージということを忘れて、もっとも素直に音楽にノっていたという印象がある。まるで彼女のコンサートに来たかのような熱狂だった。
ちゃんみなは講評で、感慨深い面持ちで呟いた。「人生で初めて曲を作ってよかったと思った」。この曲で救われたJISOOが、今はこの曲で観客を救う側に立っている。それを目の当たりにした作り手から出てきた、珠玉のひとこと。
才能の発掘が最終目的であったら、生まれない光景であった。
どこの世界に属さず戦ってきた選者のふたり
身長、体重、年齢はいらない。その人の人生が、声にのっていればいい。
Noをつきつけられ、自分自身を否定してきたすべての人にチャンスがある。うまいかどうかはどうでもいい。その人の人生や魂が、伝わる歌を。
多くの関心を集めた前代未聞のコンセプトは、ちゃんみな自身の「No」と言われた日々に起因する。
韓国をルーツに持ち、日本語の習得は7歳から。「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」で注目されるが、YouTubeのコメント欄やSNSで見た目についての攻撃を受けた。ところがダイエットや心身の努力で16キロ体重が落ちると、絶賛に変わった。一連の手のひら返しに対する怒りが、外見で人を判断するルッキズムをテーマにした楽曲『美人』を生んだ。
ガールズグループを始めとするオーディションは18回落ちた。習っていたコーチに「3ヵ国語もできるんだし、他の道に進んだら」と勧められたこともあると、不通過だった参加者たちに明かしている。
デビューをしても、ダンスを踊るのはラッパーじゃない、ヒップホップじゃない、これはJ−POPだ、K−POPだと言われ、居場所がない。POPへの蔑視、ジャンル分けへの違和感から、タイトルは『I’m a Pop』にした。
いっぽうAAAという人気グループに所属しながら、ラッパーとして活動していたSKY-HIは、かつて、歌って踊って曲も作るラッパーという自分の存在がどこへ行っても異質で孤独だったこと、正当な評価が得られないことへの忸怩だる思いを、様々なメディアで語っている。K−POPのグループにはそのようなメンバーがいて、機能している。だから、そのすべてをひとりで体現しているちゃんみなの登場は、大きな喜びだったと。
つまりノノガは、どこの世界にも属さずときに孤独を舐め、不当な評価やレイシズムと戦いながら、自己の表現を追究してきたふたりのアーティストを基軸に、成立している。
苦労を知らない成功者がプロデューサーを務めていたら、参加者に対するここまでの密な寄り添い方はできないのではないか。綺麗事でなく、それが視聴者に生々しく伝わるから、会場であの空気が育まれ、配信同時接続56万という現象が生まれたと私は考えている。
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※4回にわたり連載した『現在ビジネス』/『FRaU web』(講談社)の原文を、編集部の許可を得て転載しています。