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【HANA】「オーディション18回落ち」ちゃんみなと「異質で孤独だった」SKY-HIの”育成審査” <第2話/全4回>

  • 執筆者の写真: kazue oodaira
    kazue oodaira
  • 2月25日
  • 読了時間: 5分

更新日:4月2日








ちゃんみなの負からの出発


 たとえばノノガのスローガンのひとつ「No HATE自分に中指を立てるな」は、自分自身を大切にする、信じる、過去も含めて自己を肯定する、自分を愛することを意味する。とかくオーディション企画は、巧みに主催者側の求めるものに迎合する能力も求められがちだ。だが、ちゃんみなは自分の人生を肯定しよう、そこから審査が始まるのだとメッセージする。


 他のオーディションの最終で落ちた経験が傷になっているMOMOKA、あるいは体重を理由に落とされ自信をなくしたCHIKAや、15 歳で父を亡くして以来感情をストレートに出さなくなったと語るYURIなど、参加者と一対一で向き合い、自分の弱さや怒りはなにかと問いかける。


 SKY-HIは自社を設立し、私費でボーイズグループオーディション「THE FIRST」を実施、BE:FIRSTを見出した。その音楽プロダクションBMSGのスローガンは「才能を殺さないために」である。これまで日本の音楽業界の枠組みのなかで、才能がありながら生かせる場所がなく消えていった若者たちを起点に、自分らしく輝ける居場所を創出し、商業的に成功させた。その起業精神の延長線上にノノガはある。


 「女性という理由でBMSGに所属できない状況」を是としなかった彼と、自身も18回のオーディションに落ち、「ガールズグループに入りたくても入れなかった」「見た目や声に対して“ No”を何度も突きつけられてきた」過去を持つちゃんみな。両者によって、なにより参加者が大切にされていた。


 全5回の審査では、パフォーマンスがおわるたびに「ありがとうございました」「おつかれさまでした」と「ですます調」で語りかけ、上から決めつけたものいいや、理不尽な否定をしない。

 ちゃんみなは、ファイナルの結果発表後、デビューが叶わなかったファイナリストについて「残念ながら」と形容した進行の辻岡義堂アナウンサーに、「残念ではありません。彼女たちにとって何が一番幸せかを判断基準にしました」と即座に訂正をした。オーディション企画の結末にありがちな“成功・失敗” “勝者・敗者”という構図を、正しく壊して上書きしたのである。


 また、壇上のデビューが叶わなかった3人に向かって、SKY-HIは「出会えたことを誇りに思っています。これからも応援もサポートもたくさんしたい。"No No Girls”の一員として、ここまで素敵なパフォーマンス・時間・人生・声を見させていただき、本当にありがとうございました」と、90度に腰を曲げ、8秒間頭を下げ続けた。

 ふたりには明確に、感謝とリスペクトがあった。挑戦者が大切にされ、自由と平等を保証されていた。


 ではさらに具体的に、なにがどう民主的だったのか。私が個人的に、ノノガが革新的であったと感じた3つの要点を挙げたい。


『まだなんのトロフィーもない」審査員の説得力


1、ラッパー、現役のアーティストが選考する特異性


ちゃんみなはSKY-HIと同様にラッパー、シンガーである。現役で最前線に立ち、「まだなんのトロフィーもない」(SPECIAL TALK with SKY-HI & ちゃんみな - GIRLS GROUP AUDITION PROJECT 2024 "No No Girls"より)と自己を形容する。

しかし、高校時代からラッパーとして頭角を現し、韓国語・日本語・英語を操り、歌唱力、楽曲制作・振り付け・ライブ演出のセルフプロデュース、すべてに、卓越した独自の能力を発揮している。誰かをヒットさせたり、育成したりするのではなく、日々努力を積み上げアーティストとして毎回「死んでもいい」と思いながら舞台に立つ人間がプロデューサーになったとき、ローティーンもいるオーディション参加者に届く言葉には、とてつもないリアリティと説得力が宿る。


ラップに秀でた参加者を、4次審査で見送った際、「私たちみたいな人間」は、「死ぬほど頑張ってずば抜けなきゃ認めてもらえないの」と語りかけた。自分もかつてそれを「誰に言われても気付けなかった」という言葉とともに。

「あなた」ではなく、ラップを武器のひとつにしている自分も含め、「私たち」とすることで、厳しい助言が等身大の言葉となり、まっすぐ参加者に届く。「認めてもらえない」という表現に、今この自分も、大衆や社会という巨大なマジョリティを相手に研鑽を積んでいる最中なのだという、シビアな現実感がにじむ。

それらは、理屈でどんなに他人に言われてもクリアできるものではなく、芯から自分で気づけたときに初めて道は拓けると言う言葉も、平易でありながら本質をつく。

ステージ上で強いフレーズを歌ったあとの顔の表情、正確な英語の発音の重要性と多言語を用いるときの気持ちのあり方、パフォーマンスには私生活の甘さが出てしまうという指摘なども、現役だからこそ。


「過去に自分が言われて嫌だったことは絶対にしたくない」


 もうひとつ、ちゃんみながラッパーであることについて。

 選考の過程で彼女の“名言”が、様々なメディアに取り上げられた。これはラッパーであることが大きな意味を持っていると感じる。前述のBE:FIRSTを生んだ「THE FIRST」におけるSKY-HIの“名言”も、同様に注目された。

彼は著書『晴れるまで踊ろう』(扶桑社)で、名言のつもりはないがそう思ってくださるのなら、自分がラッパーであることは大きいかもしれないと綴っている。ラッパーの多くは、「どこにでも転がっている当たり前の物言いを嫌い」、「自分が抱えている感情に、自分の言葉で名前をつける」。そのクリエイティビティが、心に刺さる言葉を生んだ。


  「(プロから見ても高度なダンスと歌唱の技術を持つ)NAOKOの道は、化け物コースなの」。(上手い下手はどうでもいいという話のあとに)「その人の人生が、声に乗っていればいい」。「(心の中の)小さい自分に、中指立てているのと一緒なんだよね。その子泣いてると思うよ、こんなにがんばったのにって」は、自分の可能性を自ら抑え込んでしまっている参加者に対して。ちゃんみなの言葉の多くは、みずみずしく鋭意で、オリジナリティに富んでいた。


「過去に自分が言われて嫌だったことは絶対にしたくない」というちゃんみなの想いもまた、オーディションを受ける側だったからこその発露だ。素晴らしいオーディションも多いが、なかには、その先の人生にまで思いの至らない一言が、若者に長くトラウマや自信喪失をもたらすこともある。


 このような等身大の20代のアーティストが、プロデューサーとして責任を持って人材を発掘するのは、ノノガ最大の先進的かつ画期的な特性である。

                                 【第1話に戻る】【第3話に続く】



16時から4時間。アリーナ内で琥珀色の水分補給をしてのぞむ。
16時から4時間。アリーナ内で琥珀色の水分補給をしてのぞむ。

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