悪い癖と気概と深謝

『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』(毎日新聞出版)発売からちょうど半年で4刷に。
嬉しいに違いないのだけれど、
報を聞くたび「大丈夫ですか。刷りすぎで
書店から返本されやしませんか。重版と決めた人が責められやしませんか」と、
いちいち水を刺すようなことを編集者に
言ってしまう自分のみみっちさが
貧乏くさくて嫌だなと思う。

魂込めて書いたのだから
誇りを持って「でしょうね。でももっと読まれていいはずですけれどね」くらいに
受け止められなければ
真の表現者と言えまい。


御礼


『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』(毎日新聞出版)3刷の知らせが来た。

20年ぶりにお会いした編集者が、
「こういう地味な良書が重版かかってくれるのは、他社の本ですが、同じ出版に携わる者として、純粋にとても嬉しい」
とおっしゃってくださった。

「地味」に他意はない。
本当に心から言ってくれているのだとじんじん伝わり、胸に沁みた。

・・・・・⁡

取材にご協力、および
編集と営業に関わってくださった方々はもちろん
発売後、
いち早く各誌紙でご紹介くださった編集者やライターの方々、ラジオ番組、
SNSに熱く紹介してくださった読者の皆さん、
粘り強く平置きやリコメンドし続けてくださる書店員さんの力によるところがとてもとても大きい。

心から御礼申し上げます。

新刊こぼれ話

 

新刊こぼれ話

「33歳の時に母を癌で亡くしていまして。」
⁡初めてご実家でお会いした4年前の、凪のような、母のような不思議な印象をひもときたくて、台所を訪ねると
料理家・小堀紀代美さん は
そう語り出した。
静かに。
思い出のかけらを一つ一つ、つなぎ合わせるように。

取材後、余命2ヶ月の母のために書いた献立帳が出てきたと連絡があった。

私は、どうしても見たくなって、
カメラを担ぎ、再び駆けつけた。
そして、20年前の小さな手帳の1ページ、ゆれるような文字を大切に撮った。
それが、この写真だ。

・・・
一〇月二三日の朝食は、ボールペンのやや乱れた文字で、「おかゆ、梅干、さんしょう」の三つだけ。昼は「にゅうめん」。命が火が細るにつれ減っていく献立を、彼女はどんな思いで綴っていたのか。
                             〜本書より



『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』(毎日新聞出版)発売中です。

本書は、連載『東京の台所』(朝日新聞デジタル)を大幅に加筆修正したものに、
新たな取材を加えたものです。

 

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