転機

 

 随筆家で家事評論家の吉沢久子さんが、
101歳で鬼籍に入られた。

 『新潟日報』に50年、連載を続けた。
家事という同一のテーマで、50年!

 連載時、自分のお金で新潟日報を購読していると、ご本人から聞いた。

 版元から送られてくるのに何故ですか?ときくと
「投書欄を読むためです」。
 献紙は、執筆の回しか恵贈されない。
 愚問だった。

 投書を読めば、新潟の人の「いまの暮らし」がわかる。
中央にいるだけでは見えないものが必ずあると、つねにおっしゃっていた。

 わたしは台所を取材して6年目になる。
 恥を承知で告白すれば飽きかけた時もあったし、予定調和で雑にまとめた時もなくはなかった。
 吉沢さんの言葉をきいて、とても恥ずかしくなった。どこかで知った気持ちになって、書いていた。

 間違い無く、吉沢さんこの言葉は、自分の仕事の姿勢を変える大きな転機になった。

 『暮しの手帖』をはじめいくつかの雑誌で取材。
 拙著『あの人の宝物〜人生の起点となった16の物語』(誠文堂新光社)で、
聞き足りなかったことをたくさん伺えた。

 90代になられても、どれだけ聞いても疲れた顔一つ見せず
真摯に質問に向き合ってくださった
日本で最初の「家事評論家」。

 書き手としての姿勢に胸打たれた、
人生の先達である。合掌。

新刊カバー決まる。

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長野の春夏秋冬を追いかけながら、おばあちゃんたちのお茶うけを訪ね歩いた『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ: 漬け物から干し菓子まで、信州全土の保存食110品』(誠文堂新光社)が7月9日発売に。カバーも決まり、今は、大きな祭りが終わった後の心地よい脱力感に包まれている。世間の皆様がどう評価し、どう読んでくれるか。それはもう委ねるしかなく、なすすべはないが、やることはやった。やりきった。すべて撮り下ろしで、何度も長野に行かせてくださった版元の懐の深さに感謝している。もうこんなていねいな、手間のかかる本は作れないのではないかとさえ思う。奇跡のように貴重な体験だった。
装幀は前々著『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)でもご一緒だった斉藤いづみさん。カメラは長年の相棒、安部まゆみ(あだ名:安部巨匠)、編集は誠文堂新光社の至田玲子さん。取材はいつも、行きも帰りも笑いっぱなしの食べっぱなし。毎日、漬け物と寒天や干し果物で、取材に行くと肌と腸の調子が抜群によくなるという、長野の長寿の秘密を身をもって体験した。14冊目の著書。人事を尽くしたので、あとは天命を待つ気分である。

書店が怖い

昭和ことば辞典: おい、羊羹とお茶もっといで! (一般書)新刊が出ると、怖くて書店に行けなくなる。売り場の前を通っても、できるだけ目を本と合わせないように呼吸を止めて、足早に立ち去る。自分の本が置かれていないのを知るのが怖いのだ。自分の本が置かれていないとわかったとき、「お前は社会から必要とされていないよ」と烙印を押されたような、深い絶望感に襲われる。本を一生懸命作れば作るほど、そのときの落ち込みも大きい。心が狭いが、他人の売れている本が平積みになっているのを見るだけで、逆恨みしそうにもなる。本には罪がないのに。自分の未熟のせいなのに。だから暫く書店が怖い。

昭和ことば辞典 おい、羊羹とお茶もっといで!』(ポプラ社)の宣伝で、代官山蔦屋書店に行った。いろんな売り場の責任者やコンシェルジュさんが時間をとって下さった。どんなに、いいふうに言ってくれても、新刊が出るたび書店営業をしているので、ノリノリか、そうでないか、書店員さんの本当の反応はどうにもわかってしまうものだ。

そのなかのおひとりが、「これ、収集に何年かかりましたか。小津安二郎や成瀬巳喜男や川島雄三の映画って、うちの店のスタッフにも凄く好きな奴がいます。昭和40年代頃までの映画のセリフって、本当になんともいえない味わいと奥ゆかしさがありますよね。日本語に品があった。いや、セリフじゃない、フレーズだな。それをこんな風にまとめるという視点が僕は面白いと思います。もっとこの本は知ってもらった方がいい。開けば、おもしろいとわかってくれし、千円は安いと思います」
と言ってくださった。もうそれだけで、落涙しそうだった。映像の売り場の方も、その場でたくさん注文してくれた。アドバイスと、「うちの店に合うようにポップを入れます」とも。
書店恐怖症で、書店に近寄っていなかったので、本当に腹の底から、今日来て良かったと思った。ありがたかった。

本は、入稿したらもう書き手の力はどうにも及ばない遠い処に行ってしまう。表紙案の紙を着せられる頃には、嫁に出した娘のような、距離感ができる。発売され、世の中から置き去りにされても、何もできないし、売れても(まあそんな経験はないに等しいけれど)やっぱりなにもできない。自分の手の届かない子どものようなもどかしさがつきまとう。

巣立っていた先、私の見えない所で、書店員さんや読者の人にかわいがってもらったら、生みの親としてはそれが最大の幸福になる。返本にならないように祈ろう。そして、いつか書店が怖くならない強靱な精神の持ち主になりたい。

【B&B 大平一枝 新刊イベント】6月24日(月)20:00~
小津・成瀬・木下映画から学ぶ 品格&ユーモア
「あなたの言葉偏差値を上げる昭和ことば実践講座」

ゲスト:平松昭子さん(イラストレーター)

6月のお知らせ

【大平一枝 新刊イベント】
小津・成瀬・木下映画から学ぶ 品格&ユーモア
あなたのことば偏差値を上げる、昭和ことば実践講座
6月24日(月) 20:00/下北沢B&B

ゲスト 平松昭子さん(イラストレーター。昭和映画・着物通)
入場料  1500yen + 1 drink order
予約はコチラ(定員制)

新刊『昭和ことば辞典 おい、羊羹とお茶もっといで!』(ポプラ社)では、失われつつある美しい昭和の言葉を、小津安二郎、成瀬巳喜男、木下恵介、川島雄三、増村保造ら、昭和20~40年代までの映画からすくいとり、新たな光を当ててみました。
本イベントでは、
日本人が持ち合わせていた角がたたない言いまわしの知恵、ひたむきな明るさとユーモア、謙遜の美意識が感じられる「昭和ことば」の現代的使用法をマスターしましょう。

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1部:含みがあるから角が立たない『昭和ことば』の魅力、使い方のコツ
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2部:大平一枝×平松昭子 これだけは絶対観ておけリストと、昭和映画の意外な見所

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