「からすたろう」
★★★★★

八島太郎作
 偕成社
1979年

21世紀に
絶対に遺したい
読み継ぎたい一冊


ちょっと絵柄に腰がひけますか?  私は、『この絵本が好き!2004年版』(平凡社)の、「21世紀に読み継ぎたい本は」という取材
アンケートに、迷わず本書を推薦しました。
それくらい好きですし、この本をリスペクトしています。

作者の八島太郎は、戦時中に渡米。
本書は先にアメリカで認められ、
のちに日本語に直して出版されたものです。
だから原題は「CROW BOY」。
 私はどうしても涙で声が詰まって読めないページがあるので、
あまり子どもに読んであげることがありませんでした。
恥ずかしながら最近やっと、通しで泣かずに読めるようになったので、
先日、長男の学校で読み聞かせをやってきたところです。

教室では、さっきまでわいわいがやがやしていた子ども達が、
水を打ったように静まりかえり、まっすぐな瞳で、
この地味な絵柄の物語をみつめていました。
 読みおわったあと、子ども達は口々に感想を言ってくれました。
「なんだか、かなしいお話だった」
「でも、からすたろうはえらいね。いじめられても
6年間学校を休まなかったんだもん」
「そうだよね。からすの鳴き声もうまいんだよね」
「最後はみんなに尊敬されてよかったね」
ええと、つまり、そういうお話です。

 舞台は、今から七~八十年前の日本の山村の小学校。
勉強についていけず、うすのろとよばれた男の子が、
新しく赴任してきた先生と出会い、卒業間近の最後の学芸会で、
みなは彼の思わぬ才能に気付かされます。同時に、自分たちが
彼にどれだけ淋しい思いをさせていたかにも、気付くのです。
 本のどこにも、いじめはいけないだとか、かわいそうだとか
道徳的なことは一切書かれていません。
 平易な言葉で、淡々と山の出来事が綴られているだけです。
しかし、その削ぎ落とされた言葉のひとつひとつから、
本当の教育とは何か、胸が痛いくらいに、作者の言わんとしている
メッセージがひしひしと伝わってくるのです。
 よくいわれることですが、
難しいことをわかりやすい言葉で伝えることほど、
難しいことはありません。
 高い技術と能力、想像力、絵本作家として
偉大な才能を持った八島太郎が、日本で活躍できなかったのには、
戦争という時代的な背景があります──。

 彼の作品は、海外で高い評価を受け、各国に翻訳されています。
ベルギーの映画監督、フランク・ヴァン・バッセルなども、
かなり影響を受けているとききます。
こういう優れた絵本作家がいたことを、
私達は忘れてはいけないし、未来を担う子ども達のために、
是非とも読み継いでいかねばならない作品だと、強く思います。
 もしもあなたの子どもが、小さないじめをしているとわかったら、
あるいはいじめられていると知ったら、
ぜひ読んであげてください。
どんなお説教より効くはずです。

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